『i440BXの後継はi815?』

はじめに

i440BXはIntelのメインストリーム用チップセットですが、この後Intelのチップセット戦略は躓きメインストリーム向けのチップセットが見えない状態が続きました。いったいi440BXチップセットの後継は何なのでしょうか?

長らくチップセット市場で主力の地位を占めた Intel 440BX ですが、その後継を i815 チップセットシリーズだと言う人が多いようですが、正確には違うと思われます。

まず基本的には i440BX の後継は i820 チップセットシリーズです。 Intel i815チップセットシリーズはメインストリーム向けのチップセットですが、デュアルシステムを正規にサポートしていません。また、メモリが 512MB までしかサポートされていません。(440BX でも1024MB までサポートしていたことを考えると退化したことになる。)これはi815 がローエンド向けのチップセット i810 シリーズをベースに作られている為です。

Intel は Pentium III 用のチップセットとして サーバー/ワークステーション向けの i840 チップセットを、メインストリーム向けにi820 チップセットを、そしてローエンド向けに i810 チップセットをリリースしました。

チップセット機能表

i440BX i810 i815 i820 i840
最大 FSB 100MHz 100MHz 133MHz 133MHz 133MB
デュアルのサポート × ×
利用可能なメモリの種類 SDRAM/
EDO-DRAM
SDRAM SDRAM RIMM/SDRAM RIMM/SDRAM
SDRAM の 最大メモリクロック 100MHz 100MHz 133MHz 100MHz 100MHz
利用可能メモリ SDRAM/
EDO-DRAM
SDRAM SDRAM RIMM/SDRAM RIMM/SDRAM
搭載可能容量 1024MB 512MB 512MB 1024MB※ 2048MB※
利用可能なバンク数 4slot8bank 3slot6bank 3slot6bank 2slot1ch 4slot2ch
AGP の規格 2X 内臓 4X 4X 4X
ATA の規格 UltraATA33 UltraATA66 UltraATA66 UltraATA66 UltraATA66

※チップセット自体はさらに高容量をサポートするが搭載可能なメモリの本数の上限によって制限される。追加チップをつかうことで実現可能になる。

i820の素性

Intel 820 チップセットはRIMMを使うように設計されたチップセットで、MCH=Memory Controller Hub を使うことでSDRAMも利用できるようにしたものでした。

RIMM はそれまでの DRAM と比べ製造方法が難解で価格が高騰しました。このようなことはメモリの移行期には多々あることなのですが、RIMMの場合は CPU バスが 800MB/s 程度だったのでこちらがボトルネックとなりメモリバスが 800MB/s のSDRAM に対して より高速であったハズのRIMM は性能差をつけることが出来なかったのです。

Intel 820 は SDRAM も利用できましたが、単純に考えてもMCHを通して 100MHz の SDRAM にアクセスするよりも、直接サポートするi440BX や i810 の方が効率がよく速いことは明白でした。さらにこの MCH にはバグがあり Intel 820 チップセットの信頼は大きく損なわれてしまいます。

そして Intel 820 チップセットは商業的に失敗してしまいました。Intel は メインストリーム向けのチップセットが失敗してしまったために、じりじりと互換チップセットメーカーにシェアを奪われることになります(互換チップセットメーカー大手のVIAのかの有名なチップセットApolloPRO133A のシェアが瞬間ながら 50% を越えたのはまさにこの時)。

i815の素性

チップセットを一から開発するのには時間がかかるため、Intel は既に開発中のチップセットをその穴埋めに利用するほかありませんでした。 上記の通りRIMM を使う点に問題があったので、RIMM を使う i840 や i820 がベースのチップセットは利用出来ません。Intel はローエンド向けのi810 の後継である i815 をメインとなるメインストリーム向けのチップとして出荷せざるおえなくなってしまったのです。つまり、i815 チップセットはメインストリーム向けに出荷されていましたが、実際にはローエンド向けに開発されたチップセットだったのです。

実際には i820 は発売以前からその普及に対して疑問視される声もあり Intel ではいわば"保険"として i815 チップセットをメインのハイエンド向けとして出荷できるように予め改良をしていた可能性もたかいですが、やはりベースとなっているのが i810 なので完全に 440BX の後継としては力不足だったようです。

もう一点、デュアルに対応しない点に関しては実際に対応マザーが出ているなど意図的に Intel が対応させなかった感があります。これは、Intelがどうやら RAMBUS (RIMMを開発したメモリメーカー)にメインストリーム向けには今後 RIMM を使うチップセットを販売するという契約をしてしまっていたようなのです。

もし、この i815 を完全にメインストリーム向けとして販売すると Intel は RAMBUS に莫大なペナルティ(約束破ってごめんなさい代)を支払わなければならなかったようです。これを回避する為にIntel はほとんど売れていない i820 をメインストリーム向けとして、あくまで i815 はローエンドの上位版として販売したという可能性もあるということです。

つまり、技術的には完全に i440BX の後継に相応しい性能を i815 に備えさせることも可能だったのですが、意図的に限定した可能性もあるのです。Intel自身も i815 は、ローエンドからメインストリームの下の方をサポートしてそれより上は i820 がカバーするとしています。

i830の素性

さて、Intel は i845 B-step で RAMBUS との契約を破棄?したようです。つまり、メインストリーム向けに RIMM 以外のメモリを使ったのです。実はこれに先立ってPentium III でも同様のことをしようとしていたのです。 第三世代の Pentium III (Tualatin) はバスの仕様に変更がされています。これに伴って新たなチップセットを投入することにし、このチップセットではRIMM ではなく SDRAM (憶測の域からでないがおそらく予定では DDR SDRAM もサポートする予定だったと見られる)を使うようにしました。

しかしながら、ご存知の通りデスクトップ向けには i815 の改良版が使われてそんなチップは登場しませんでした…デスクトップ向けには。そうです、開発コードネーム「Almador」こと i830 チップセットはデスクトップ向けでも使えるように作られていたのです。

 実際には、モバイル専用に変更されてデスクトップ向けには出荷されませんでした。この為、実際にデスクトップ向けにもリリースされていたらどんな仕様になっていたかは分かりませんが少なくともモバイル用の仕様の現時点でもメモリ容量は1024MBまではサポートしますし、USB2.0も当初サポートされる予定でした。また、名前もi820 と i840 の間で i820 の後継/上位という感じになっています。

実際にはi830はi815の後継で、i820の後継となるRDRAMをサポートしたチップセットは途中で開発を断念していました。Intelは位置づけ的にi830をi820の後継としてリリースする予定だったのかもしれませんが、モバイル専用になってしまったので Dual 動作のサポートやメモリの本来の最大容量などは分からず、Intelのみぞ知るとういワケです。

i440BXの後継は?

ところで現在の i820 チップセットシリーズの後継は何でしょう? 恐らく i850 がそれにあたります。つまり、ここでも Intel は i820と同じ状態になっているのです。i850 は RIMM を使うために市場の支持をそれほどまでは得られず結局バリュー向けの i845 の改良版であるi845 B-step やその後継がメインストリーム向けとなっています。 これも i845 を i810 、i845 B-step を i815に置き換えればそっくり全く同様なのです。(i850 が i850Eとなってほそぼそと改良されているのもそっくり)

Intel は i440BX 以降、本格的にメインストリーム向けに開発した製品がヒットしていないのです。今後、出るだろう Springdaleが i440BX の本当意味での後継(ちゃんとメインストリームとしてヒットする)となりうるか? 乞うご期待といったところでしょうか? いずれにせよ、i815はあの大成功を収めた i440BX の後継ではない ということです。