Intel 820 Chipset

はじめに

Intel 820 チップセット は1999年に発売された440BXの後継となるチップセットです。

開発コードネームはCaminoでローエンド版のi810が既に登場していたために初の機能は少ないのですが、メインストリーム向けのチップセットとしては多くの新機能をもって登場しました。

が、しかし、度重なる出荷延期に加え、MTH=Memory Translator Hubというオプションの不良と回収、またチップセット自身もメモリ系が不安定でさらに性能面で440BXに対して差をつけられなかったために普及しないまま市場から姿を消すこととなりました。

主な仕様

Intel 820

スペック

チップ名 Intel 820 Chipset
ノーズブリッジ Intel 82820 (MCH=Memory Controller Hub)
サウスブリッジ Intel 82801 (ICH=I/O Controller Hub
対応CPU PentiumII/PentiumIII/Celeron
デュアル動作
対応メモリ種類 RDRAM (オプションを使えばSDRAMも可能)
対応メモリ速度 PC600 PC700 PC800 及びオプション使用時に PC100 SDRAM
メモリの最大搭載量 1024MByte
最大メモリスロット数 2slot 4bank
ノースブリッジとサウスブリッジの接続に使用しているバス Hub Interface
AGP 4X
内臓グラフィック -
PCI 32bit/33MHz×6 Ver2.2
IDE UltraATA66
USB 2prot
付加機能 AC'97

特徴

このチップセットの最大の特徴はRDRAMを採用した点でしょう。本来バス幅が狭くなった分、配線の本数が減って配線の取り回しが楽になるハズだったのですが初ものだったせいもあってかタイミングが極めてシビアになってしまいました。当初i820では三本のRIMMスロットをサポートする予定だったのですが、三本目にメモリを増設すると不安定になることが判明してマザーボードメーカーがi820マザーボード出荷直前に二本に限定するようになるなど、Intelの信用は地に落ちてしまいます。このあたりの問題でi820は出荷がなんども延期になるという状況に陥ってこれまた信頼を大きく損なうことになります。

RDRAMについて詳しくは『RDRAM』を参照してください。

さらにRDRAMの製造に各ベンダーがてこずり、RDRAMの価格はSDRAMの10倍近い価格となってしまいました。むろん、新しいメモリが高いのはいつものことで、今回はまったく新しい形式のメモリだったのとRDRAMの構造自体が高騰しやすかったのも相まっていつもよりも高騰してしまったのですが、IntelはオプションでSDRAMもサポートできるようにして移行を促しました。このようなことをIntelは以前にも行っており、i430TXやi440LXはSDRAM以外にもEDO-DRAMもサポートしていました。

しかし、MTHというこのオプションは欠陥品でまともに動いてくれなかったために、リコール(回収)するハメになります。この一件でIntelは莫大な費用と共に信用を失うことになります。その後問題を修正したMTHがリリースされますがそれでも安定してなかったようです。加えてMTHはRDRAM信号をSDRAMの信号に変換するチップですが、当然変換する分ネイティブで対応するチップセットよりも遅くなってしまいます。この点がi430TX/i440LXがネイティブで両方サポートしたのと異なる点です。

これはEDO-DRAMとSDRAMがタイミングの取り方に多少の差があるだけだったのに対してRDRAMが全く違う仕組みだったため仕方がなかったといえばその通りなのですが、何れにせよi820でSDRAMを使うのは得策ではなくなってしまいます。

なお、このMTHですが、SDRAMの信号とRDRAMの信号を変換するチップなので、メモリースロットに刺すもアダプターに搭載することが可能でした。つまり、i430TXやi440LXがマザーボード上に両方のスロットを用意したり、どちらか一方のみをサポートしたのに対して、RIMMスロットにこのMTHを搭載したSDRAM用アダプタを搭載すればRIMM用のスロットを採用したマザーボードでRIMMが高価な間はSDRAMを代用して、RIMMの価格が下がったらRIMMに交換するという方法も利用できたのです。このデザインはなかなか有用だったのですが、いかんせんMTH自身が不良品だったのでこのメリットも日の目を見ることはできませんでした。ちなみにMTHはPC100までしかサポートしておらず、PC133の133MHzでの使用はできませんでした。

さらに、RDRAMを使う場合においてもCPUのFSBの方がボトルネックになってしまい、SDRAMと価格に見合うだけの性能差(たしかに多少性能は高かったが)を示すことができませんでした。この為、i820を使うメリットがあまりないという状況になってしまい超高価なRDRAMの価格とi820への不信感からある人は互換チップへ、ある人は古きよきi440BXに逃げi820は普及しないままその役目を終えることになってしまいます。

Intelは、不具合を解消したMTHをi820/i820E用にリリースする予定でしたが、大幅な改善が必要だったのとi815がSDRAMをネイティブでサポートしたためにi820でSDRAMをサポートする意味がなくなってしまいキャンセルすることになります。結果、i815が主流となってi820は目立たなくなっていったのです。

このチップセットは、メインストリーム向けのチップセットとして初めてHub Architectureを採用したものです。従来のi440BXがノースブリッジとサウスブリッジをPCIで接続していたのに対して、i820ではHubInterfaceと呼ばれる266MB/sの転送速度を誇る専用のバスによって接続されました。これに伴って従来ノースブリッジに統合されていたPCIコントローラがサウスブリッジに移りました。

サウスブリッジに統合されていたIDEインターフェースは年々高速化して、サウスブリッジがPCIバスに接続されていた従来の方法だとIDEインターフェースで大量のデータ転送が生じるとこれがPCIバスを占有することになりPCIバス上の他の周辺機器のパフォーマンス(むしろIDEインターフェースを含むPCIに接続された機器同士の)が低下する問題がありました。HubInterfaceによってサウスブリッジとは別にPCIバスが占有できるのでPCIバス上の周辺機器をフルに使いながらサウスブリッジの機能(IDEインターフェース)を利用できるようになりました。i820ではサウスブリッジで大量のデータ転送が行われる機能はIDEインターフェースぐらいなものですが、後に複数チャンネルのUSB2.0などがサウスブリッジに統合されていく上でもHubArchitectureは有用な技術となりました。

ところで、本来サウスブリッジというのはPCI-ISAブリッジのことを指していて、i820を含めハブアーキテクチャを採用したIntel製チップセットのサウスブリッジにあたるICHではISAバスをサポートしないのです。ISAバスを利用するにはオプションの82380ABというチップを利用する必要があります。

このチップセットではメインストリーム向けでは初めて133MHzのFSBをサポートしAGP 4Xにも対応していました。またサウスブリジは従来のi440BXに比べて大幅に強化され格段に多機能になりました。まず、UltraATA66に対応してPCIのバージョンもそれまでのVer2.1からVer2,2にアップデートされ、バスマスター動作可能な本数が実質5本から6本に増えたりしました。

AC'97準拠のオーディオ機能のデジタルコントローラ部を内臓して汎用コーディックチップを搭載するだけでサウンド機能も搭載可能としました。ただし、オーディオ機能のデジタルコントローラはチップセットに内臓されていますが処理はCPUが行いソフトウェア的に処理する仕組みとなっていて、これは現在のICHでも同様でオンボード機能のCPU占有率が高めというのはそこに原因があります。ただし、最近の高速なプロセッサではほとんど問題とならないのも事実ですが。

またAMR=Audio Modem Riserという新しいスロットを搭載ました。これは、簡単に言えばAC'97のAC-linkに接続されたコーディク部をライザーカードに分けて搭載できるようにしたもので、主にAC-Linkと電源供給線他USBやS/FDIFとアナログ線などからからなっていてコーディック部分を乗せた拡張カードをこのAMRスロットに搭載すればその機能が使えるというものです。AMR規格ではオーディオの他にモデム機能もAMRで実装可能となっているようです。Intelの主張によればマザーボードからアナログ回路を別にすることで品質を高めるとのことですが、オンボード機能にそこまで品質を求めているとは思えないので(ユーザーもメーカーも)、おそらくモデムやオーディオ機能の有無をパソコンベンダーがオプションとして簡単に選択できるようにするのが目的だったかと思われます。

AMRの後継としてCNR=Communication and Networking Riserというものもあり、こちらはオーディオとモデム以外にイーサーネットなども搭載可能としてPlug&Playに対応したもので機能的にはAMRを完全にカバーしますがAMRとの互換性がありません。このCNRは後述のi820Eなどに採用されたサウスブリッジICH2からサポートされました。

また、AMDやVIAなどアンチIntel派がAMRの後継として策定したのがACR=Advanced Communication Riserで、こちらはAMRのカードを搭載することができるように物理的に互換性を持たせてあります。

しかし日本国内の自作市場ではAMRもCNR/ACRのいずれも普及せず、ほとんど対応カードも見られることはありませんでした。というのも、イーサーネットやオーディオに関してはこの機能を使うくらいなら最初からオンボードで機能が搭載されているマザーボードを購入するか、より高性能で高機能なPCI版の方を選択し、モデムに関しても汎用性の高いPCI版モデムがほとんど価格的にかわらない値段で購入できたためです。

ラインナップ

i820チップセットは後にサウスブリッジを強化したi820Eというのがリリースされています。

チップ名 Intel 820E Chipset
ノーズブリッジ Intel 82820 (MCH=Memory Controller Hub)
サウスブリッジ Intel 82801BA (ICH2=I/O Controller Hub 2
対応CPU PentiumII/PentiumIII/Celeron
デュアル動作
対応メモリ種類 RDRAM
対応メモリ速度 PC600 PC700 PC800
メモリの最大搭載量 1024MByte
最大メモリスロット数 2slot 4bank
ノースブリッジとサウスブリッジの接続に使用しているバス Hub Interface
AGP 4X
内臓グラフィック -
PCI 32bit/33MHz×6 Ver2.2
IDE UltraATA100
USB 2channel 4prot
付加機能 Ethernet論理層 AC'97 (6チャンネル)

基本的にはサウスブリッジが強化されただけでノースブリッジはi820から変更はありません。ただし、i820で問題をおこしたMTHのサポートが外されていてi820では実質RIMM以外に利用することはできなくなりました。

サウスブリッジはi815Eなどに採用されたICH2でUltraATA100に対応して、USBコントローラも2チャンネルの4ポートをサポートしました。昨今のUSB製品ラッシュで2ポートでは不足していたので効果的な配慮といえます。また、オーディオに加えてEthernet機能の論理層も内蔵され物理層を搭載すればEthernet機能が利用できるようになりました。これによりCNRの搭載も可能としました。オーディオ機能は強化されて、2チャンネルステレオまでのサポートから6チャンネルサラウンド(5.1チャンネル)のサポートに拡張して対応したコーディックを使うことで5.1チャンネルの再生を可能としました。最近ではドルビーデジタルのデコードもソフトウェアで行うことが多く、ゲームの効果音もソフトウェアで行えるのでサウンド機能はこのサウンド機能でソフトウェア処理ながらほとんどのニーズを満たすことができるようになりました。