Intel 875/865 Chipset

はじめに

Intel 875/865 チップセット は2003年に発売されたPentium 4用の主力チップセットです。

開発コードネームはCanterwood/Springdaleで最大の特徴は、コンシューマ向けのチップセットで初めてデュアルチャンネルのDDRSDRAMをサポートする点です。初めてFSB 800のPentium 4にも対応し、PC3200のDDR SDRAMもサポートしました。FSB800のPentium 4と共に発売され、PC3200(DDR400)のデュアルチャンネル DDR SDRAMによって今までのボトルネックさったメモリ帯域がFSB帯域と並び高性能化が望めるようになりました。

主な仕様

Intel 875/865

スペック

チップ名 Intel 875P Chipset Intel 865PE Chipset
ノーズブリッジ Intel 82875P (MCH=Memory Controller Hub) Intel 82865PE (MCH=Memory Controller Hub)
サウスブリッジ Intel 82801DA (ICH=I/O Controller Hub 5) or 82801DAR (ICH5R)
対応CPU Pentium 4
(FSB 800/533対応)
Pentium 4/Celeron
(FSB 800/533/400対応)
対応メモリ種類 デュアルチャンネル
PC3200 DDR SDRAM
(PC2100/1600は非サポート)
デュアルチャンネル
PC3200 DDR SDRAM
(PC1600は非サポート)
対応メモリ速度 6.4GB/s
メモリの最大搭載量 4GByte
最大メモリスロット数 4slot 8bank
ノースブリッジとサウスブリッジの接続に使用しているバス Hub Interface
AGP 8X
PCI 32bit/33MHz×5 Ver2.2
IDE UltraATA100, Serial ATA
USB USB 2.0 4channel 8prot
付加機能 CSA AC'97 5.1ch
PAT (Performance Acceleration Technology) ×

チップセット機能表

※デュアルチャンネル仕様だがシングルでも動作可能

※ICHはRAID対応のICH5Rと非対応のICH5のどちらかを選択できる

特徴

このi875とi865シリーズのチップセットは全て同じチップの選別品から出来ていると言われます。CPUのように完成品の中から優秀なのをi875へ…のようにしているワケです。開発コードネームはCanterwoodとSpringdaleというように分けて開発していたようなので、もしかしたらどちらか一方がキャンセルになって同じダイを使うようになったのかもしれません。いずれにせよ同じダイからできているi875とi865ですが、何種類かのバリエーションが存在します。

i875/i865Chipsetの機能比較(基本機能は上のi875/i865の表を参照

チップ名 i875P i865PE i865G i865P
PAT × × ×
FSB 800 ×
PC3200 ×
FSB 400 ×
内臓グラフィック × × ×

このチップセットの最大の特徴はPentium 4向けチップセットで今までワークステーション向けのE7205のみが対応していたデュアルチャンネルでDDRSDRAMを利用できる点です。IntelはPentium 4の広い帯域を生かすためにRDRAMの推進を行っていました。このPentium 4とRDRAMの組み合わせではFSBの帯域とメモリの帯域が同程度になるために高速化が望めます。しかし、RDRAMの推進が完全に失敗したことで長らくi845のDDRSDRAMでPentium 4システムが構築され、このため狭いメモリの帯域がボトルネックとなりPentium 4の広いFSB帯域が生かせないという状態が続いていました。その答えがDDRSDRAMのデュアルチャンネル仕様です。これにより、ちょうどFSBの半分の帯域をもつ現行のDDR SDRAMをデュアルチャンネルで利用することでFSBと同じ帯域を確保してメモリのボトルネックをなくしました。

i845PE/i845GEチップセットではPC2700のDDR SDRAMが利用可能で、FSB 533のFSB帯域は4.2GB/sでPC2700は2.7GB/sの帯域を持ちます。それでもメモリの帯域は不足しますが、それだけでなくFSB533のベースクロックは133MHzで、PC2700のベースクロックは166MHzでクロック同士が非同期になっているのです。このためクロックのタイミングを調整することで性能が低下したり安定性に欠いたりする可能性がありました。i875/i865ではFSB800とPC3200の組み合わせではベースクロックが200MHzで帯域が6.4GB同士で完全に同期するので高速で安定した動作が望めるのです。

ちなみに、i875Pとi865PEの違いはPAT機能が搭載されているかいないか(有効になっているかどうか)と値段です。このPAT機能というのはメモリアクセス性能が向上する仕組みでFSB800のCPUとPC3200のメモリを同時に利用した際に有効にできます。この機能は上のFSBとメモリの非同期によるタイミングの調整を上手に省く機能で、FSBとメモリのクロックと帯域が完全に一致できるから利用できる機能なのです。(この原理からするとFSB533のCPUとPC2100のメモリでも利用可能なハズだが、おそらくこの辺はIntelの戦略もあるのだろう。)

i875/i865は初のPentium 4のFSB 800版の対応チップセットでFSB 800版 Pentium 4 と同時にリリースされました。上記の理由でFSB帯域とメモリ帯域を一致させるために初めてPC3200DDR SDRAMもサポートしました。ただし、FSBとメモリのクロックと帯域の同期という面では効果があるのですがこの初代Pentium IIIの8倍もあるFSBとメモリ帯域が必要かどうかはあやしいもので、実際FSB533とPC2100対応のデュアルチャンネル DDR SDRAM対応のE7205チップセットとあまり性能が変らないことも多いようです。このあたりはいずれ差がでてくる点なのでしょうが、現在クロックが3GHzどまりの状態ではFSB533とさして差はないようです。

i875/i865ではCSA(Communication Streaming Architecture)と呼ばれるGigabit EthernetControllerの接続ポートをノースブリッジに備えます。i845シリーズやE7205チップセットではサウスブリッジにEthernet機能の論理層を内蔵していて物理層を搭載するだけでEthernet機能を利用できるようになっていました。しかし、GigabitEthernetでは理論的には1000Mbps=124.5MB/sの帯域を消費することになりますが、ノースブリッジとサウスブリッジをつなぐHub-Linkは266MB/sの帯域しかもっておらずその半分の帯域をEthernetに取られてしまうと他のIDE機器やオーディオなどに影響が出る可能性があり、またPCIに接続してもこれまた133MB/sしか帯域がないことからそのほとんどを取られてしまい他の機器に影響がでる可能性が高いことから、ノースブリッジにCSAと呼ばれるGigabitEthernet Controller専用の接続ポートを搭載しました。簡単に考えればノースブリッジにHub-Linkが2本搭載されているようなものです。

ちなみに、ノースブリッジに論理層を搭載するワケではなく単純にGigabit Ethernet COntroller専用のインターフェースを搭載するだけなので、先には論理層と物理層の両方とCSAのインターフェースを持ったチップが必要です。

ただし、来年登場予定のGrantsdaleと呼ばれるチップセットにはPCIと共に次期拡張バスである3GIOを搭載することになっていて、これにより帯域不足は解決するようなのでCSAはi875/i865が最初で最後の搭載チップセットとなるようです。実際にはGigabitEthernet自体が1000Mbpsの帯域を完全に使うことはなくそれほど理論値に近いあたいを出さないことから帯域がボトルネックになることはそれほどないようで、転送速度そのものはPCI接続やサウスブリッジ統合型とさほど差はでないようです。ただし、他の機器への影響が少ないという利点はあります。

コンシューマ向けのチップセットでAGP 8Xを初めてサポートした初めてのチップセットでもあります。現時点でAGP 4Xの帯域が不足することは希なのでよっぽど激しい3Dゲームをやらない限りAGP8Xの恩恵にあずかることはないのですが、3Dユーザーインターフェースを使うことが知られている次期OSのLongHornでは派手なユーザーインターフェースの動作環境がAGP8X以上が推奨されていることからAGP 8Xというのは一般のユーザーでもポイントになる可能性もあります。また、i865GはIntelのデュアルチャンネルチップセットで初めてグラフィック統合型のチップセットですがグラフィックコアはi845とあまりかわらないようです。

i875/i865ではサウスブリッジに新開発のICH5又はICH5Rが搭載されます。どちらを選択するかはマザーボードメーカーが選択でき、ICH5Rには2portあるSerialATAでRAIDが構築できる機能が搭載されていてその他の点はICH5と同じです。ただし、このRAID機能はハードウェアで実装されていますがRAIDの演算をCPUで行うタイプなので安価なRAIDカードと同様にソフトウェアRAIDに近いものです。

ICH5R/ICH5はIntelのチップセットで初めてSerial ATAが内臓されました。PCI接続のサードパーティ製のSerial ATAチップと性能差はあまりないようですが、Intel純正という安心感とオンボードという手軽さから、これによりIDEは一気にSerialATAに移行していくと思われます。ちなみに現時点でのSerial ATAの転送速度は150MB/sの理論値ですが、ハードディスクの転送速度がせいぜい70MB/sを程度なので100MB/sの理論値をもつUltraATA100とパフォーマンスで差がでることは現時点ではないようです。ただし、配線の取りまわしや将来性という面では大きなアドバンテージでしょう。

USB 2.0もICH4の3チャンネル6ポートから4チャンネル8ポートへと増えましたが、PCIスロットの数は従来の6スロットから5スロットへ変更されました。

ICH4とICH5/ICH5Rの性能表

チップ名 ICH4 ICH5 ICH5R
Serial ATA × 2 port
Serial ATA RAID - ×
PCI 32bit/33MHz×6 Ver2.2 32bit/33MHz×5 Ver2.2
USB 2.0 3channel 6prot 4channel 8prot

Intelのチップセット戦略はi820以来メインストリーム向けチップセットがことごとく失敗していて、このチップセットで再び成功することができるかが注目すべきところです。i875/i865は次期Pentium4であるPrescottにも対応できる予定(BIOSのアップデート程度で対応可能らしい)らしく将来性は比較的高いようです。ただし、消費電力が予想よりも高すぎるのでその辺で対応できない場合があるようです。

ラインナップ

後に865の廉価版としてシングルチャンネル専用としたIntel 848チップセットが登場します。Intel 848は名前的には845のマイナーアップ版といった感じですが、実際にはIntel865の機能限定版のような位置づけです。

チップ名 Intel 875P Chipset Intel 865PE Chipset Intel 848P Chipset
ノーズブリッジ Intel 82875P (MCH=Memory Controller Hub) Intel 82865PE (MCH=Memory Controller Hub) Intel 82848P (MCH=Memory Controller Hub)
サウスブリッジ Intel 82801DA (ICH=I/O Controller Hub 5) or 82801DAR (ICH5R)
対応CPU Pentium 4
(FSB 800/533対応)
Pentium 4/Celeron
(FSB 800/533/400対応)
対応メモリ種類 デュアルチャンネル
PC3200 DDR SDRAM
(PC2100/1600は非サポート)
デュアルチャンネル
PC3200 DDR SDRAM
(PC1600は非サポート)
シングルチャンネル
PC3200 DDR SDRAM
(PC1600は非サポート)
対応メモリ速度 6.4GB/s 3.2GB/s
メモリの最大搭載量 4GByte 2GByte
最大メモリスロット数 4slot 8bank 2slot 4bank
ノースブリッジとサウスブリッジの接続に使用しているバス Hub Interface
AGP 8X
PAT (Performance Acceleration Technology) ×