はじめに
Intel 965 チップセット は2006年に発売されたCore 2 Duo用の主力チップセットです。開発コードネームはBroadwaterで、メモリアクセスの高速化機能とDirectX9.0をハードウェアで対応するグラフィックコアを実装するのが特徴です。
それまで上位機種にしか搭載されていなかったメモリの最適化機能を実装し、Windows Vistaに対応したグラフィックコアを持ち、さらに鳴り物入りでリリースされたCore2 Duoの主力チップとして登場した為、それなりに人気があるチップセットです。しかし、発熱と安定性に難があり、手放しでは喜べない部分があるため意見は分かれるようです。
なお、このチップセットからシリーズ内で製品を区別するために付けられる『P』や『G』などのアルファーベットが数字の後ろではなく前に付くように改められました(理由はとくに言及されてはいない)。
主な仕様
Intel 965
- Core 2 Seriesをサポート。
- 初めてDirect X 9.0をハードウェアでサポート(グラフィックコア内蔵タイプのみ)
- 初めてメインメモリとしてPC6400 (DDR2-800)をサポート。
- Gigabit LANの論理層を実装。
スペック
チップ名 | Intel P965 | Intel G965 | Intel Q965 | Intel Q965 |
---|---|---|---|---|
ノーズブリッジ (MCH) | Intel 82P965 | Intel 82G965 | Intel 82Q965 | Intel 82Q963 |
サウスブリッジ (ICH) | Intel 82801HB/HR (ICH8/ICH8R) | |||
Intel 82801HH | Intel 82801HO | × | ||
グラフィック機能 | × | GMA X3000 | GMA 3000 | |
対応CPU | Core 2 Duo/ Core 2 Extreme |
Core 2 Duo | ||
対応メモリ種類 | DDR2-800/667/533 | DDR2-667/533 | ||
メモリの最大搭載量 | 8GByte | |||
最大メモリスロット数 | 4slot 8bank | |||
MCH - ICH間 | Direct Media Interface | |||
PCI-Express x16 | ○(Cross Fire非対応) | × |
※サウスブリッジは対応しているICHから選択できる。
※GMA 3000はGMA X3000から処理速度を落として動画再生支援機能などが省かれたもの。
ICH7とICH8/ICH8R/ICH8DO/ICH8DHの性能表
ICH8シリーズはICH8とICH8R、及びICH8RにViiv対応を加えてたICH8DHとvPro対応を加えたICH8DOとが存在します。ICH8DOとICH8DHの基本的な機能はICH8Rと同等です。
チップ名 | ICH7 | ICH7R | ICH8 | ICH8R |
---|---|---|---|---|
Serial ATA | 4port | 6port | ||
Serial ATA RAID | × | ○ | × | ○ |
Parallel ATA | 1channel | × | ||
PCI-Express | 4Lane | 6Lane | 4Lane | 6Lane |
USB 2.0 | 4channel 8port | 5channel 10port | ||
LAN論理層 | 100Mbps 対応 | Gigabit LAN対応 |
特徴
Intelは近年、ハイエンド向けチップセットとミドルエンド向けチップセットの2種類をリリースしていました。ところが、965シリーズをリリースした際にはハイエンド向けチップセットをすでにリリースしていた975チップセットを継続することにしました。975チップセットは965チップセットの前世代の945チップセットのハイエンド向けチップセット(厳密には945世代のハイエンド向けチップセットは955チップセットで、975チップセットはこれにATIのCrossFire対応を加えたマイナーアップ版)で、ハイエンド向けの方が旧世代というすこし変わった状況となりました。この為、965チップセットはハイエンド向けチップセットである975チップセットにくらべて機能が勝っている点もあるなど非常にややこしい状況でした。
チップ名 | 945P | 955X | P965 | 975X |
---|---|---|---|---|
メモリ最適化機能 | × | MPT | FMA | MPT |
DDR2-SDRAM | 667 | 667 | 800 | 667 |
メモリ最大積載量 | 4GB | 8GB | 8GB | 8GB |
ECC | × | ○ | × | ○ |
Core 2 Duo | × | × | ○ | ○ |
CrossFire | × | × | × | ○ |
※上記は正式にサポートしているかを表にしており、例えば975Xでもオーバークロック機能を使ってDDR2-800が問題なく動く事例や、945チップセットでCore2 Duo対応マザーボードがリリースされているなど例外があります。
メモリ高速化技術
このチップセットの特徴としてメモリ関連の強化が上げられます。Intelではハイエンド向けチップセットへのアドバンテージとして、ハイエンド向けチップセットだけにメモリの高速化技術を実装していました。965シリーズは975チップセットの下位に属するミドルエンド向けチップセットですが、メモリ高速化技術が実装されています。ただし、975チップセットではMemory Pipeline Technology(MPT)と呼ばれる技術であったのに対して、965に実装されたのはFast Memory Access(FMA)と呼ばれるもので同一ではありません。
MPTは875チップセットに搭載されたPATの後継技術で、基本的にはメモリアクセスのレイテンシを削減して高速化する技術ですが、メモリの内容に応じて処理を最適化する機能を実装しているようです。これに対してFMAはSerialATAのNCQと同じような技術で、メモリアクセスを実行された順に行うのではなく効率がよくなるように並び替えて行う技術で同じメモリ高速化技術でも方向性は異なるようです。
対応メモリ
P965/G965/Q965チップセットでは、メインメモリで初めてPC6400 DDR2-800に対応しました。上位チップの位置づけになる975XチップセットがPC5300DDR2-677までが正式対応であることから、上記の世代が違うことからくる逆転現象が起こってしまっています。
ただし、FSBが最大でも1066MHzである為にデュアルチャンネルで使うメモリではDDR2-667でも充分な帯域があり、DDR2-800でもほとんど性能に差がなかったのが実情でした。加えて、当初DDR2-800のメモリモジュールとの互換性に難があるなど相性問題が頻発し、コストパフォーマンスが悪いだけでなく安定性でも問題があるためチップセット自体の評価を下げる結果となってしまいました。
Windows Vista Capable PC対応
このチップセットのG965/Q965/Q963に実装されたGMA3000グラフィックコアは、Intelの統合型チップセットのグラフィックコアとしては初めてDirectX9.0にハードウェアで対応してShader Model 3.0に対応したものです(それまでのGMA950は3D演算の多くをCPUによってソフトウェア処理させていた)。この機能強化は言うまでもなく2006年終わりにリリースされる予定の時期WindowsであるWindowsVistaに搭載される新型GUIのAero Glassに対応する為に他なりません。
MicrosoftではWindows Vistaが快適に動作するPCの条件としてWindows Vista Capable PCを定めており、この条件の中にDirectX9.0にハードウェアで対応してShader Model 2.0以上のグラフィックプロセッサを持つことが規定されています。つまり、このまま945チップセットを続投してしまうと、Intelの内蔵チップセットはすべてWindowsVista Capable PCから外れるという事態になってしまうので、Intelとしてはどうしても条件を満たすグラフィックコアを内蔵するチップセットを投入する必要があったのです。
実はこの965チップセットの最大の特徴がこのグラフィックコアと言っても過言ではなく、実際にグラフィックコアを持たないハイエンド向けのチップセットが続投されていることからも、グラフィックコア以外は既存のチップセットでも特に問題はなかったことが伺えます。
このグラフィックコア自体の性能は、前世代の945チップセットシリーズのGMA950よりも確かに性能が向上しているのですが、それに伴い発熱もかなり多く、機能拡張された部分が大きかった為に安定性の面でも厳しい評価をされました。また、性能についても期待が大きかったせいもあってあまり評価は高くなかったようです。
現時点でのグラフィックチップはローエンド以外のほとんどでファンが実装されていることからも、Intel純正のマザーボードにファンレスで実装されているG965チップセットでは発熱の面で無理があるか、ファンレスで済む程度の性能しかないの二者択一になっていることは明らかとも言えるのかもしれません。
Gigabit LAN 論理層
ICH8 シリーズでは内蔵のLAN論理層がGigabit LAN対応のものに改良されました。ICH7シリーズまでは、ICH内蔵のLAN論理層は100MbpsのLANまでで、この為GigabitLANを搭載するためにはICH内蔵のLAN論理層を使わず別途にGigabit LAN対応の論理層と物理層の両方を持ったチップを搭載しなければなりませんでした。ところが、現実問題としてほとんどのマザーボードでGigabitLANが標準となっており、ICHでGigabit LANの論理層をサポートする意義は非常に大きかったと言えます。
パラレルATA
ICH8シリーズでは、パラレルATAのサポートが外されました。もちろん、別途にPCIやPCI-Express接続のパラレルATAコントローラを実装すれば利用することは可能になります。
HDDのSerial ATAへの移行はほとんど完了していると言っても差し支えないですが、光学デバイスは最新のモデルでもパラレルATAインターフェースを使ったものが多く多少時期尚早と言えたかもしれません。ただし、Intelは今までもフロッピーコントローラやキーボードコントローラ等いまでも使われているデバイスのサポートを早期に打ち切って別コントローラ(スーパーI/Oコントローラ等)に移管していることを考えると不思議ではありません。コントローラとして仕組みが確立して他ベンダーでも高品質なものが安くつくれるようになったら、そちらに移管するというのがIntelのスタンスなのかもしれません。
その他
この他、ICH8シリーズには静音化へのニーズを考慮して温度によるファンコントローラ(しかも予測などを行って無駄に回転数を上がるのを防ぐ機能などを実装した比較的インテリジェンスなもの)を内蔵したり、セキュリティの強化の為に任意のUSBポートを有効化、又は無効化するなどの細かい機能拡張がなされています。