Microsoft Security Essentialsに思う。

Microsoft Security Essentialsに思う。(1)

Windows 7が発売される一ヶ月くらい前。

MicrosoftがWindows向け無料のセキュリティソフトの『Microsoft Security Essentials』をリリース(無料なので発売ではないわけですね)しました。

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無料というとなんだか有料のものに比べてイマイチな感じがしますが、必ずしもそうとも限りません。実はMicrosoftがそれまで有料だったジャンルに無料の製品を投入することは今までにも幾度もあります。たとえば、インターネットブラウザのInternet Explorerが登場するまでは、Netscapeという有料のブラウザが主流でしたし、高性能なメディアプレーヤーであるWindows Media Playerが登場するまでは、Real Playerなど有料(Real Playerのベーシック版は無料)マルチメディアプレーヤーなどが多く利用されていました。

Internet Explorerなどはそのユーザー数の多いことからサイバー攻撃の対象になることも少なくないため評価はわかれるところでしょうけれども、アプリケーションとしての性能としては十分なものをもっているといってよいでしょう。ですから『Microsoft Security Essentials』もそうなってくれればいいかな、と思います。

また、セキュリティソフトベンダーに遠慮して高機能にしないのではないか?ということも聞かれますが、同様の理由でそうとも言い切れないと思います。Windowsに標準で機能が搭載された結果、撤退や倒産した企業は有名どころに絞っても両手でも数え切れません。。。ただ、Microsoftがあまり乗る気じゃなないのも事実だと思います。それはInternet ExplorerのときやWindows Media Playerのときの華々しさとは程遠い、ひっそりとしたリリースからも伺えます。

なぜって、労力に比べて儲からないからというのがもっとも考えられるところです。セキュリティベンダーと違ってMicrosoftはセキュリティソフトでお金は取らないので、ほかの方法でもうけなければなりません。ブラウザやメディアプレーヤーはコンテンツがあるので、その市場の主導権を握っていればライセンス料や作成ツール等の販売で儲けられます。もちろん、開発費がすべて回収できているかはわかりませんが、頑張った分だけ儲かるというところは商売人としてはチャレンジする価値はあるでしょう。

でも、セキュリティ業界ではあまりそういった可能性が低そうです。さすがに、ウィルス作成ツールの販売で儲けるわけにはいきません。。。w  とは言え、うまくWindowsの一部として機能させれば、定期的にWindowsをバージョンアップするようにユーザーを導くことができる可能性はあります。

Windowsはサポート期限はあっても使用期限はありませんから、古い機能で事足りるならば問題なく使い続けることができます。ウィルス対策ソフトも基本はそういうことになるのですが、その特性上新しいウィルスに無力になるということはWindowsよりも遙かに致命的と言えます。

セキュリティーベンダーは、1年間(2年,3年版などもあるが1年が基本)は新しいワクチンを提供しますが、それをすぎると提供されなくなり、お金を払って更新するように頻繁にダイアログが表示されるようになります(アンインストールしたくなるほどうっとうしい場合が多い。。。)。このため、実際には1年間の使用期限があるのと変わりはありません。

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『Microsoft Security Essentials』は無償ですが、Windowsのサービスの一環ですからWindowsのサポート期限がきれれば新しいワクチンは提供されなくなる可能性が高いです。そうなると、ウィルス対策ソフトと同じようにおWindowsをバージョンアップするように頻繁にダイアログが表示されるようになるのかもしれません。

今MicrosoftがWindows 7を売るのに最も苦労しているのが、古いWindowsを満足して使っているユーザーにどうやってバージョンアップしてもらうかという点です。それはユーザーさえ良ければWindowsはずっと使えるからです。でも、Windowsにセキュリティ対策ソフトの機能が組み込まれたら、今よりずっと明確な使用期限のようなものがうまれることになるのかも知れません。

Microsoft Security Essentialsに思う。(2)

Microsoftが投入したWindows向け無料のセキュリティソフトの『Microsoft Security Essentials』。OSを作っているMicrosoftがセキュリティ製品を投入することによるメリットを考えてみましょう。

1 つめは、『Windowsと密接に連携した動作』が実現されることです。たとえば、コントロールパネルにあるWindows UpdateはInternet Explorerの機能を使っていますし、エクスプローラー上で音楽ファイルを簡易再生できるのもWindows Media PlayerがWindowsに統合されているからこそ搭載された機能と言えます。

2つめは、『Windows上で動作する他のアプリケーションからの利用』が簡単に可能になることです。たとえば、iTunesのようにアプリケーションの中にWEBを表示する機能や、ブラウザ上で音楽を再生する機能などを、それぞれのアプリケーションが独自に開発するよりも遥かに簡単に搭載できるようになります。

3つめは、『9割近いシェアを持つユーザー数』の活用です。ウィルス対策の基本的な方法は、新しいウィルスに感染したパソコンの報告をもとにワクチンを作成して全員に配布するという方法です。したがってユーザー数が多ければ対応も早くなり犠牲者を少なくすることができるので、Windowsの圧倒的なシェアは非常に有利です。

4 つめは、『Windowsの修正という対応方法』もとれる点です。ウィルスの中でも『プレビューしただけで感染』するような高度なウィルスの多くは、 Windowsのセキュルティーホール(不具合)を悪用したものです。セキュリティ製品は対策は講ずることはできても、根本的な解決はセキュルティーホールを修正することですから、両方できるMicrosoftは頼もしいといえるでしょう。

他にもあるとは思いますが、これらはすべて現段階では可能性に留まっていて、すでに実現されているわけではありません。ですから、『Microsoft Security Essentials』が今後どう発展していくか、期待をこめて見守っていきたいというわけです。

ところで、Microsoftの『バージョン3の法則』というのをご存知でしょうか?

『Microsoftが新しいジャンルにアプリケーションを投入すると、だいたいバージョン1と2はイマイチで、バージョン3から使い物になるようになる。』というような法則で、これがまた結構あたっているので面白いところなのです。

たとえば、Windowsは、『Windows 3.x』から人気が出て次のWindows 95(Ver.4.0)で現在の地位を確固たるものにしていますし、Internet ExplorerもVer.3.0からNetscapeと互角に張り合えるようになり、Ver.4.0あたりで破竹の勢いでシェアを拡大していきました。 Windows Media Playerが現在のような多機能プレーヤーへ歩みだしたのがVer.7.0からなので、広く使われひとつの節目となったVer.9.0が3世代目ということになります。

『Microsoft Security Essentials』は現在Ver.1.0ですが、前身であるWindows Live OneCareがVer.2.0まで登場していることを考えると、3世代目ともいえます。『Microsoft Security Essentials』はアプリケーションとしての使い勝手の点ではまず及第点、肝心のセキュリティソフトとしての能力は『Microsoft Security Essentials Ver.3.0』以降に期待といったところでしょうかw

以前、Windows Live OneCare 2.0の発売の際にMicrosoftの開発者の人言っていたことで印象に残っていることに『Microsoftはセキュリティ製品で設けるつもりはない』という言葉があります。たしかに、他のセキュリティベンダーも真剣にウィルス対策のソフトを作っているのでしょうが、その一方でコンピュータウィルスがこの世からなくなると困るのもまた事実です。

でも、Microsoftは違います。自社のWindowsのシェアを守るためにコンピュータウィルスには撲滅して欲しいと本気で思っていることでしょう。だからこそ、この製品には他のセキュリティベンダーの製品とは違う可能性もあるかもしれません。