電子書籍についてマニア目線で考えてみた。

電子書籍についてマニア目線で考えてみた。

数年前から来年こそは『電子書籍元年』と叫ばれて久しいですが、少なくとも日本に住んでいると待てど暮らせど電子書籍の夜明けは見えてきません。SONYのReaderはいまいち盛り上がりに欠けていますし、鳴り物入りで参入した楽天のKoboは違った意味で盛り上がっている状況。

米アマゾンが日本の電子書籍参入の準備を着々進めいるようなので、音楽のように海外に主導権を握られてしまうのではないかと、出版業界の行く末がやや心配です。電子書籍が普及しない問題点は色々あると思うのですが一般的な話は抜きにして、ここでは私の大好きな『マンガ』に焦点を当てて電子書籍を考えてみたいと思います。

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鍵は漫画!

日本が世界に誇るコンテンツ、『マンガ』です。  巨匠・手塚治虫先生の影響が大きいと思いますが、たしかに日本の漫画は世界のソレとは一線を画する独特の文化があります。偏見かもしれませんが、音楽や映画は海外から新しい文化が発信されてきたイメージがありますが、マンガは日本から発信されていると思うのですがどうでしょうか。

そして、日本が電子書籍で先行し、アップルの音楽のように世界の電子書籍のデファクトスタンダードになりえる可能性が残っているとしたら、そのキーとなるのは『マンガ』だと思うのです。

マンガは本よりも楽に読めます。文字が多いと定評のある(?)こち亀でも一冊読むのにそれほど時間はかからないでしょう。だから巻数が多くなってきても読む方はそれほど大変ではありません。そう、問題となるのはその置き場所なのです。

難しい学術書なんかは部屋のアクセサリーとして並べておくのに役立ちますが(笑)、マンガは部屋に並べていても箔はつかないでしょう。置き場所をとらないという特性こそ、電子書籍の大きなメリットです。つまり、『マンガ』は電子書籍のメリットを最も生かせるコンテンツと言っても過言ではないのです。

画面サイズ

電子書籍のハードウェアを見てみると、SONYのReaderは5インチと6インチ、楽天のKoboは6インチです。インチで言われるといまいち大きさが分らないのですが、例えばSONYのReaderの6インチ版は90mm×122mmでした。対するマンガは、一番メジャーな単行本のサイズはだいたい115mm×175mm程度(メーカーによってばらつきがあるみたい)なので、幅が20mm、高さで50mmも小さいということになります。

画面が小さければ解像度が高くても、どうしても読みづらいと感じてしまいます。とは言え、iPadの9.7インチは148mm×197mmで幅は30mm、高さで20mmほど大きく、やや大きすぎる感じです。そもそもマンガは表紙以外のほとんどが白黒なので重くてバッテリーを消費するカラー画面である必要もありません。

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そう、日本ではマンガが盛んにも関わらず、マンガを快適に読むためのデバイスが未だに存在しないのです!もちろん、逆に電子書籍に合わせてマンガそのものを最適化してしまうという手もあるでしょう。

たとえば、私のよく読むマンガでは縦に4段くらいありますが、それを3段にして紙面自体を小さくしてしまうという方法です。しかし、この方法は過去の資産を切り捨てることになってしまいます。そうするにはあまりにもったい膨大な資産が日本にはあります。 ですから、マンガに向いた電子書籍リーダーがあるべきだと思うわけです。

では、実際にどんな端末が良いでしょうか。単純には現在のSONYのReaderをお値段据え置きで、画面サイズを現在のマンガ単行本に合わせてもらえればOKだと思います。本来であればマンガと言ってもA4サイズから文庫サイズまで様々な大きさがありますが、まずは手頃な大きさの高さ115mm×175mmのサイズが本体の大きさと読みやすさの点からバランスがとれていると思います。

また、マンガは表紙や一部のページがカラーだったりしますが、大半は白黒ページですし、雑誌掲載時にカラーのものでも単行本になると白黒になるものも少なくありません。ですから、重さやバッテリー持続時間のトレードオフとしてEインク式の白黒画面でいいと思います。

電子書籍データ自体はカラーで、iPadなどで読めばカラーに見えるような方法でもいいかもしれません。価格はマンガユーザーの多くは学生が占めていると思われるので、現在のSONY Readerや楽天のKoboと同じように1万円を切る価格帯で提供できれば、と思うのです。

コンテンツ

よく電子書籍の方が本よりも安くするべきだという風潮がありますが、私は別にそうである必要はないと考えています。もちろん、物理的な紙代とか流通コストとかを省いている分、安くできるだろうという気持ちもわかります。それでも、デメリットがないのであれば、今までその価格を払ってマンガを読んでいたのですから同じ価格でも別にかまわないと思います。そう、重要なのはデメリットがなければ、という点です。

ですから絶対条件として、『機器やサービスに縛られず永続的に読めること』、音楽で言えばDRMフリーのMP3のような感じのライセンスが必要だと思います。電子書籍がなかなか上手くいかない最大の障壁はコレだと私は思います。なぜって、同じ(かちょっと安い程度)のお金を払っても、本は火事にでもならなければずっと読めますが、電子書籍だとサービスがコケれば将来読めなくなるかもしれないと思えば、だれだって慎重になってしまいます。

わざわざ紙の本を買って『自炊』なんてことをやっている人達が一杯いて、それを代行するのが仕事として成り立つくらい需要があることを見れば明らかです。手間をかけても制限無くずっと読めるデジタルデータが欲しいとみんな思っているのです。そう言うと業界の方々から違法コピーが。。。というお話しが聞こえて来そうですが、本だって回し読みすることもあります。ネットを介して大量に拡散するのは自炊でも同じことですし、すでにそうなってしまっています。

もし、違法コピーを読んでいる人達の中に、本と同じ使い勝手の正規の電子書籍があればお金を払ってもかまわないと思っている人達がいるとすれば、それは業界のとっても、その人達にとっても不幸なことでしょう。人気商品は、品質もさることながら、使い勝手の良さも重要なファクターとなります。それはコンテンツといえども同じこと。権利も大事ですが、お客さまあっての権利だということは忘れないで欲しいと思います。

コンテンツで言えば、ジャンプやマガジンといった雑誌をマンガ毎にバラで読める(音楽ではアルバムの中の曲を1曲づつ買えるのだから)など、紙の本では実現できない機能があると面白いかもしれません。全部(15本くらい?)で200円で1本なら50円などの、何本か読むなら1冊買おうかなと思える絶妙な価格設定が重要です。

ただし、電子書籍はかさばらないので、雑誌で読んで単行本も買っている人が、雑誌をそのまま残すようになることが考えられるので、その分の損失を補うような工夫は必要だと思います。電子書籍化により手軽になる定期購読の顧客を伸ばすなど、いくらでも方法はあると思います。

本屋さんの役割

電子書籍のあおりをもろに受けるだろう本屋さん。もちろん電子書籍には反対でしょうね。しかし、全国各地にある本のための場所、それを活用しない手はないと思います。私はアマゾンが楽でよく使いますが、本屋さんで本を選ぶワクワク感は代え難いと思っています。

紙の本をケータイ売り場のモックのような扱いで本屋さんに置いて、その本屋さん(本屋さんに設置された無線LAN)で購入した分は、その本屋さんにリベートが入る仕組みなどもあってよいかもしれません。もちろん、買った本にその本屋さんオリジナルのブックカバーやしおりが(デジタルデータのオマケ)付くような消費者への心遣いもお忘れ無く。

電子書籍時代の本屋さんは、今の本屋さんの平積みコーナー(おすすめ)と図書館のようにノンビリ読めるスペース、そして司書さんみたいな本屋のマスターが居てくれるような場所なんじゃないかと思います。イベントや同じ本の趣味を持った人達との交流などの場にするなども考えられるかもしれません。本の値段は据え置きで、流通コストの低下分をこういった部分に投資するというのも悪くないと思います。

まとめ

とまぁ電子書籍についてマンガに焦点を当てて、ハードウェアとソフトウェアの両方の側面から考えてみました。サービスの要は『コンテンツ = 中身』です。その点では日本は『マンガ』という世界に通用するコンテンツを保有しているのです。日本のマンガは海外にも人気がありますから、外国語訳版などをラインナップに加えて展開すればそれなりに勝負になるハズです。

マンガでハードウェアとサービスを定着させることができたなら、他のコンテンツだって競争力が生まれてきます。電子書籍元年。まだ夜明け前なのは日本の業界にとってはまだチャンスが残っているということでもあります。マンガとデジタルガジェット。日本のお家芸たる最強のコンビが世界に羽ばたくことを願ってやまないのです。