『制御方式』

はじめに

電車の話を見ると、チョッパ制御だのインバータ制御だの専門用語が登場します。私はインバータっていうとクーラーの室外機が浮かぶのですが、クーラーの話をしているのではないようです。ここでは電車の制御形式についてお話したいと思います。

制御

制御方式ってなんのことですか?ということですが、電車の速度を速くしたり遅くしたり『制御』する方式のことです。電車はモーターで動くわけでそのモーターに入れる電気を調整することで、モーターの回転数を変えて電車の速度を制御します。この電気を調整する方法が上の制御方式というワケです。

抵抗制御

もっとも単純な方法は抵抗によってモーターに掛かる電圧を変化させる方法です。直流モーターの場合、電圧が高ければ(定格までは)回転数が多くなり、電圧を下げれば回転数が落ちて0Vになると停止します。よって、モーターの前か後ろに抵抗器を挿入して、その抵抗値を調節することでモーターに掛かる電圧を変化させてやれば電車の速度を制御するとこができるワケです。初期の電車ではこの方式が採用されていました。

抵抗や電圧と言われてもピンとこないかもしれませんが、身近なものとすればオーディオのボリューム(アナログのやつ)とかがそれにあたります。スピーカーを動かす信号も電気なので可変抵抗でその電圧を変化させて音量を調整しているのです。

しかし、抵抗器で無駄に電力が消費される上、抵抗というものはそれそのもがモーターのように動くことはないので消費された電気エネルギーは全て熱になってしまいます。この為、消費電力が高い燃費が悪い電車になってしまい、また発熱が多いので地下鉄などではトンネル内に熱がこもってしまうので廃熱が大変になるという欠点があります。

チョッパ制御(電機子チョッパ制御)

抵抗式の欠点を克服すべくチョッパ制御という方法が考案されました。チョッパ制御とは電気のスイッチをすっごい勢いでON・OFFを繰り返すことでモーターの回転数を制御する方法です。OFFになる時間を少なくしてゆくことでモーターに流れる電気の量が増え速度があがり、OFFになる時間を多くしてゆくことでモーターに流れる電気の量が減り速度が下がるというワケです。

この方法ならば抵抗制御とは異なり、速度が遅い状態では使用される電気の量も少なくなり消費電力が少なくなります。また無駄に抵抗で電気が消費されることはないので発熱も少なく地下鉄でも問題なく使えるという利点があります。

しかし、あんまりノンビリON・OFFをしてしまうと、電車の動きがぎこちなくなってしまうことは想像に難くないでしょう。この為、高速にスイッチを切り替えることができるサイリスタと呼ばれる半導体スイッチを利用します。基本的に電車のモーターを動かす為に超大電流がそのスイッチに流れるので、かなり大型の高価な半導体素子が必要となり制御装置のコストが跳ね上がってしまうという欠点があります。

サイリスタ位相制御

交流区間を走る列車用の制御方式で、チョッパ制御と制御方法はほぼ同じです。

交流電車は、それまで一度直流に直してから通常の直流電車と同じように抵抗制御していました。この直流から交流に変換する部分でダイオードと呼ばれる簡単な半導体素子が使われていたものを、チョッパ制御と同じサイリスタに置き換えて電圧の制御を行えるようにしたものです。

簡単に言えば、交流電車を従来の方法のままチョッパ制御をする場合、交流から半導体素子のダイオードを使って直流に変換し、そして半導体素子のサイリスタを使って制御を行うことになります。そこで、ダイオードの部分をサイリスタで置き換えて、交流から直流に変換するのと同時に制御も行ってしまう方式です。

電機子チョッパと同じように高価な大容量半導体素子を使うことには変わりないですが、もともと交流電車にはダイオードとよばれる大容量の半導体素子や、デコボコになった電流を滑らかにする機構などを搭載しているので、直流電車を抵抗制御からチョッパ制御にするときよりもコスト増は押さえられています(逆に交流電車はもとから高かった)。

また、雪国では床下にある制御機器の中に粉雪が入り込むことで、制御機器内にある物理的に動くスイッチなどの機構が動作不良を起こすことがあり、抵抗制御に比べて制御機器内に物理的に動く部分がほとんどないサイリスタによる制御はとても効果的でした。後述のVVVFインバータが登場するまで、北海道用の車両などを中心に利用されています。

界磁チョッパ制御

価格が高くなる電機子チョッパ制御に対して界磁チョッパ制御という方法が考えられました。ただしチョッパという名前が付いていますが、こちらは基本的には抵抗制御です。

モーターは下の図のような永久磁石による界磁と電機子という組み合わせのものも多いですが、電車のモーターでは電気磁石による界磁と電気子という組み合わせのものが使われることが多いです。

図

モーターは界磁と電機子の磁石の力で回転するのですが、強力な磁石だと低速回転の時は高い馬力を出すことができますが、勢いに乗って高速回転させたい時は逆に強力な磁石がその回転を邪魔してしまうのです。(本当は逆起電力などの磁気学の難しい話ですが、磁石を強力にすると馬力はでるが高速回転に向かないってのはイメージ的に分かっていただけるかと?)そこで界磁側の電磁石に流れる電気を調整して、界磁の磁石の力を強めたり弱めたりすることでモーターの回転を制御する手法が抵抗制御のときから行われていました(弱め界磁制御と呼ばれる)。

界磁チョッパ制御は、この界磁に流れる電気を制御するのにチョッパ制御を利用します。界磁にながれる電気の一部のみをチョッパ制御するので、電機子チョッパ制御ほど高価な半導体を使わずにすみます。

界磁チョッパはそこそこ省電力で機器もそれほど高くないという利点がありますが、複雑なモーターを使ってるので機器が壊れやすかったり消耗しやすかったりという欠点があります。ちなみにこの界磁チョッパ制御を世界で初めて採用した電車は兄貴分の東急8000系だったりします。

界磁添加励磁制御

界磁添加励磁制御も、基本的には抵抗制御になります。

界磁チョッパ制御とは異なり、界磁側に流れる電気を制御するのに別に用意した電気を逆方向に流すことで対応します。基本的に抵抗制御なので電機子チョッパ制御ほど効率はよくありませんが、コストも安く仕組みもシンプルなので、JRで広く使われました。以前山手線などで使われていた国鉄205系で採用された方式です。電気を添加することから界磁添加励磁制御とよばれます。

VVVFインバータ制御

今までは直流モーターでの制御だったのですがインバータ制御は交流モータを使った制御方式です。
直流と交流の違いについて詳しくは『Column 03』を参照してください。

交流モーターは電圧だけでなく周波数を変化させることにより回転数や馬力を調整することができるので、この性質を使い交流モーターを制御する方式をVVVFインバータ制御方式と呼びます。交流の周波数や電圧を変化させるのには半導体素子が使われ、半導体の技術が向上してある程度安価に大容量の半導体素子が作ることができるようになったことで実現した技術です。

交流モーターは消耗品がなくメンテナンスフリーである上、直流モーターに比べて小型化ができるとう利点があります。性能、コスト、消費電力、など、ほとんどの面で優れていることから最近の電車ではほとんどこちらの方式が採用されているようです。