FinePix Z800EXRのイメージセンサ

はじめに

私が愛用しているFinePix Z800EXRについて、その特徴を下の4つにわけて考察してみることにしました。

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今回は、その中でイメージセンサについて詳しくお話ししてみたいと思います。

スーパーCCDハニカム

FinePix ZシリーズはFinePix Z5以降長らく、富士フイルム独自のスーパーCCDハニカムではなく、一般的なCCD(たぶんOEM)を採用していました。私はスーパーCCDハニカムの FinePix Z2の画質を結構気に入っていたので、いつか再びスーパーCCDハニカムを搭載したZシリーズがでることを心待ちにしていたのです。

2009 年にスーパーCCDハニカムEXRが発表された際に、自信作なので上位機種だけでなく広く展開したいと言っていたので大いに期待していたので、FinePix Z700EXRでスーパーCCDハニカムEXRが採用された時には『キター!』と思いました(笑)。

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なお、後継のFinePix Z900ではEXRの機能は継続しているものの、イメージセンサーが裏面照射型のCMOSに変更されてしまったので、奇しくもこのFinePix Z800EXRはFinePix 4700Zから続いていたスーパーCCDハニカムの最後の製品(世代)となってしまいました。

いずれ機会があれば、裏面照射型のCMOSを使ったEXRと比較してみたいですね。

※FinePix Zシリーズの歴史について詳しくはFinePix Zシリーズの歴史をご覧下さい。

スーパーCCDハニカムEXR

スーパーCCDハニカム

『スーパーCCDハニカム』は、もともとイメージセンサの画素を八角形にした上で45°回転させてハニカム(蜂の巣)状にならべることで画素の面積を大きくしたもので名前の由来ともなっています。画素の面積が広くなれば、それだけ1つの画素に当たる光の量が多くなるのでノイズが少なく高画質になります。また、この構造により出力される画像の画素数を実際のイメージセンサの画素数の2倍にすることができるという特徴もありました。

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(左)一般的なCCDの画素(イメージ)、(右)スーパーCCDハニカムの画素(イメージ)

スーパーCCDハニカムSR

その後、スーパCCDハニカムは時代と共に進化していきますが、その世代によって異なる方向に進化しています。例えば、同じスーパーCCDハニカムでも『スーパCCDハニカムSR』と呼ばれるものは、異なる大きさの画素を並べることでダイナミックレンジを広げる技術が導入されました。これは粒子が一定ではないフィルムの特性をイメージセンサに応用させたものでフィルムメーカーらしい技術でした。

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低感度な画素と高感度な画素を組み合わせて高ダイナミックレンジを実現

スーパーCCDハニカムEXR

今回の『スーパーCCDハニカムEXR』は、隣り合った同じ色の画素を上手く組み合わせて、高ダイナミックレンジ、高感度、高画素の3つのモードを切り替えるという技術が使われています。

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(左)高画素モード『HR』、(中)高感度『SN』、(右)高ダイナミックレンジ『DR』

※スーパーCCDハニカムEXRの絵づくりについてはFinePix Z800EXRの絵づくりをご覧下さい。

※スーパーCCDハニカムEXRの各種撮影モードについてはFinePix Z800EXRの撮影モードをご覧下さい。

スーパーCCDハニカムEXRは、『SN』モードで面積を広げて感度を上げるという初代のスーパーCCDハニカムの方針を引き継ぎ、『DR』モードで異なる感度の画素でダイナミックレンジを上げるというスーパーCCDハニカムDRの方針を引き継いでいます。

実はそれだけでなく、スーパーCCDハニカムやスーパーCCDハニカムSRはイメージセンサそのものが特長でしたが、スーパーCCDハニカムEXRはイメージセンサそのものよりも画素の扱い方が特長なのです。これにより、この技術はCMOSで応用することができ、EXR CMOSに受け継がれていくことになるのです。

位相差AF

FinePix Z800EXR の最大の特徴は世界初というイメージセンサー内蔵のAFセンサによる位相差AFを搭載している点でしょう。位相差AFとは一般的に一眼レフカメラ(レフがついているのがポイント、一眼カメラではない)で利用されているオートフォーカス方式です。

一般的なコンパクトデジカメがオートフォーカスの方式でコントラストAFを採用しているのに対して、FinePix Z800EXRは一眼レフカメラなどで使われる位相差AFを搭載することで高速なフォーカスを可能にしました。

位相差AF

レンズを通ってきた光を2つに分けて像を作り、それを専用のセンサーで認識して2つの像の間隔(距離)から被写体までの距離を測る方式です。下の図のように、AFセンサに2つの像をつくり、その2つの像の間隔でピントを合わせます。

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AFセンサの2つの像の間隔でピントを合わせる
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(左)ピントが手前になっている、(中)ピントが適正、(右)ピントが後ろになっている

間隔が狭ければピントが手前にずれており、逆に間隔が広ければピントが後ろにずれているということがわかるので、それを基にピントを調整します。

この方式はピントを徐々に合わせていきピントが合った地点でフォーカスを完了できるので後述のコントラストAFよりも高速にピントを合わせることができるのが利点です。

ただし、ピントを合わせる際にはAFセンサにレンズからの画像を写しておく必要があるので、一般的にはイメージセンサにつねに画像を写しておく必要のあるコンパクトデジカメやデジタル一眼カメラでは使うことはできず、一眼レフカメラで利用されます。(一眼レフカメラの跳ね上げ式ミラーに一部の光りをAFセンサに送る機能を持たせてある)

コントラスト式AF

一般的なコンパクトデジカメやデジタル一眼で使われているのはコントラストAF方式で、簡単に言えばピントを動かしていって一番コントラストが高かったところがピントが合っているとする方式です。

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(左)ピントが合っていない、(中)ピントが合っている(コントラストが高い)、(右)ピントが合っていない

イメージセンサからの画像でピントを合わせるので追加の機構がほとんど必要なく安価で小型化に有利ですが、ピントを全範囲で動かしてコントラストをチェックする必要があるので動作が遅いという弱点があります。

ちなみに、コントラストAFでは何もない雪原や青空などコントラストがないような被写体だとピントを合わせに失敗することがあります。ピントを無限遠にするならばテキトーでもかまわないかもしれませんが、ちゃんと合わせたい場合は被写体と同じ距離にある適当な対象でピントを合わせてから撮影することで対応できます。

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手をおいてピントを合わせてから撮影

FinePix Z800EXR

FinePix Z800EXR はイメージセンサーを改良して位相差AF用のセンサーの機能をイメージセンサに搭載してしまったので、跳ね上げミラーなどを使わずにイメージセンサーだけで位相差AFが可能となっているという画期的な機能をもっているのです。富士フイルムではこれを『瞬速フォーカス』と呼んでいます。

実際に使ってみたところ、位相差AFによりフォーカスはたしかに高速に・・・なっているような気がしますが、最近のコントラストAFも高速なのでそこまで大きな差は感じられないというのもまた事実だと思います。正直、私のもっているLUMIX G1と比べてそれほど違いはわかりませんでした。

そもそも、このFinePix Z800EXRに搭載された位相差AFには得手・不得手があるようで、コントラストAFと併用して毎回自動的に切り替えているため、そのフォーカスがどちらのAFを使ったかわからずなんとも言えません。また、起動時間が遅いことによってフォーカスの速さが生かされていないのも残念な点です。

結局、後継のFinePix Z900EXR にはイメージセンサーがCMOSに変更された影響で搭載されていないので、今のところ後にも先にも富士フイルムがこの方式を採用したのはこの世代限りとなってしまいました。(2012年現在)

なお、2011年にNikonが鳴り物入りで参入したミラーレス機Nikon 1シリーズでこれと同じようにイメージセンサー内蔵の位相差AF方式が採用されているのは皮肉なものです。ちなみに、Nikonのサイトに行くと『レンズ交換式デジタルカメラにおいて世界初』と書かれています(FinePix シリーズがデジタルカメラにおいてはすでに搭載してしまったため)。

http://www.nikon-image.com/products/camera/acil/body/nikon1_v1/ (Nikon)

イメージセンサのサイズ

FinePix Z800EXR のイメージセンサーのサイズは1/2型のスーパーCCDハニカムでフラグシップモデルのFinePix F300EXRと同じ大きさになります。実は以前のスーパーCCDハニカムFinePix Zシリーズでは同世代のFinePix Fシリーズよりも一回り小さいCCDを搭載していたので地味にかなりうれしい変更です。

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FinePix Z2は同時期のFinePix F11よりも小型のイメージセンサを搭載

ちなみに、Pentax Q は1/2.3型のイメージセンサを搭載しているので(CCDとCMOSのサイズ比較に意味があるかは別にして)イメージセンサーのサイズだけであればこちらの方が有利になります。

画素数は1200万画素で、実は私が一緒に使っているLUMIX G1とPentax Qも同じだったりします。イメージセンサの種類も大きさも違うにも関わらず画素数が偶然一致したのは面白いところです。写真サイズは最大で 4000×3000(Lサイズ)ですが、『DR』や『SN』モードだと2816×2112(Mサイズ)が最大です。

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(左)『LUMIX G1』、(右)『Pentax Q』、ともに1200万画素のイメージセンサを搭載

画像サイズ

画像サイズは『L』、『M』、『S』の3種類から選びますが、撮影した後にリサイズを選択すると『S』よりも小さな横幅640ピクセルの写真を作ることができます。また、先ほども書いたとおり『DR』と『SN』では『M』が最大になります。FinePix Z2の時はもう少し種類が色々ありましたが、むしろそうそう細やかに切り替えて使っている人は少ないと思うので使いやすくて良いです。

ただ、『EXR AUTO』で撮影していると自動で『HR』と『DR』、『SN』が切り替わるので『L』に設定していると写真サイズがマチマチになってしまうのが気になります。とはいえ最大サイズを『M』に設定すると『HR』の時に画質を落としている(せっかくの情報を捨てている)ことになるのでなんかもったいない気がするのです。

個人的には『DR』と『SN』の2択モードか、『HR』のシチュエーションにイメージセンサの情報を余すところなく使ってサイズは『M』になるようなモードが欲しいと思います。『HR』は高解像度がウリですが、拡大してエッジや偽色を見ると画素数が上がれば解像度も上がるとも言えないと感じます。『M』サイズの画素数でも、エッジがシャープで偽色を抑えた方が結果的に解像度が高い写真と言えると思います。

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(左)『L』サイズの原画、(右)同じ写真をPhotoshopで『M』サイズにリサイズ、ともに240×180でトリミング

上の写真ではもともと同じ写真ですが『L』サイズはややノイズがありエッジがぼやける傾向があるので、同じ写真でもリサイズした方が写真は小さくなりますがシャープに見えます。

縦横比

縦横比は4:3が基本で、16:9も選べますがマルチアスペクトではなくてトリミングになります。FinePix Z シリーズに限った話ではないですが、すでにスクエアサイズ(4:3)のディスプレイが絶滅危惧種になりつつある今、4:3を基本にする必要性はないんじゃないかと思います。

とはいえ、プリントするならば16:9よりもやっぱりフィルムの定番だった3:2が最適です。富士フイルムはフィルムメーカーなのですから、その辺りを前面に押し出して差別化してみてもいいんじゃないかと思います。

もちろん、単にトリミングして3:2モードを作るのならば他にも対応しているカメラはたくさんあります。そうではなく、イメージセンサーの縦横比を3:2として3:2が最大サイズになるようにすれば、カメラの性能を生かしつつ、プリントで切れてしまう部分が少なくできます。年配の人では今でも写真屋さんでデジカメの写真をプリントしている人も少なくないので、本業(?)との連携を上手くするのも強みにできると思います。

ちなみに、操作面ではサイズのところに縦横比も一緒にあるのですが、そう頻繁に縦横比を変えている人を見たことありません。なので、サイズと縦横比は別々(別階層)にしても良いんじゃないかなと思います。

余談ですがトリミングとマルチアスペクトの違いは、トリミングが基本となるサイズの写真から一部を切り取って異なるサイズの写真を作っているのに対して、マルチアスペクトは大きめの画像(=イメージセンサ)からそれぞれのサイズの写真を作っているので、すべての情報を含んだ写真サイズがないのが特徴です。

下の写真は同じ写真をPhotoshop でトリミングしたものですが、カメラのものと違って面積がだいたい同じになるように作っているので、それぞれの写真で写っている範囲が異なります。つまり、4:3は上下が広い分左右が狭く、16:9はその逆で、3:2はその中間となり、すべてが写っている写真はありません。

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マルチアスペクトのイメージ、(左)『4:3 (2440×1830)』、(中)『3:2 (2586×1726)』、(右)『16:9 (2816×1584)』