『なぜPentium 4は最初人気がなかったのか?』

はじめに

Pentium4は登場した当初、各種メディアでベンチマークなどが行われその結果さんざんな講評を受けるとことになりました。どうしてPentium4だけがこのような評価を受けることになったのか?そして、現在では見事に返り咲いてメインストリームの座を確固たる物にしている理由について考えてみます。

Pentium 4は遅かった?

Pentium 4ではコアをPentium Proで採用されてPentium IIIまで使われていたP6アーキテクチャからNetBurstアーキテクチャに新たに変更することになりました。このNetBurstアーキテクチャは高クロック化を容易にする反面パイプラインが多くなり結果、同一周波数ではP6アーキテクチャよりも遅くなってしまいました。処理する内容によりますがPentiumIIIの1.0GHzはPentium 4 1.3GHzよりどの項目でも速く、Pentium 4 1.7GHzよりもどの項目でも遅い様子だったようです。もともと周波数を上げて高速に処理するのが目的のコア設計ですから、クロックがあがらない初期のものでは遅くなってしまうのは仕方がないことなのですが。

ただ、このコアの変更を悪意のある面から見るとIntelが卑怯な手を使っていると見られてしまったこともPentium 4の印象にかなりマイナスに作用しました。というのも、当時IntelはAMDと熾烈なクロック争いの中にあり性能を犠牲にしてでも高いクロックが出しやすいNetBurstアーキテクチャを使ったのはIntelはクロック争いに勝つことを優先して消費者の利益を考えてないとみることができるからです。さらに言うと消費者の大半は、クロック=性能と考えてしまいがちです。だれでもPentiumIII 1GHzよりもPentium 4 1.3GHzの方が速そうに感じるでしょう。これをたまたまそうなったと考えるか、意図的に消費者を惑わしたととるかは分かれるところですが、正直印象はよくなかったのは事実です。

Intelにも言い分はちゃんとあります。IntelとしてはこれからCPUの処理速度を要求するのはマルチメディアなどの処理で、ビジネスアプリケーションなどはもう今の性能で充分だというのです。なるほど、パイプラインの数が多くなると複雑な計算は先読みの失敗で処理速度が下がってしまいますが、マルチメディア系の処理は似たような演算を膨大な数をこなさなければならないものですからこの選択は正しいとうワケです。似たような計算は先読みがしやすくミスが減るのでパイプラインの数が増えた分の処理速度の低下はあまりなく、膨大な数をこなすためにクロックがものをいうからです。

まあ、どちらの言い分も正しいというワケですが、ここで一つP6アーキテクチャで高速なCPUを作ることはできなかったのか?という疑問がでてきます。つまり、P6アーキテクチャのままで高速なCPUが作れるのならばわざわざNetBurstアーキテクチャに切り替えたのであればIntelにはそれなりに思惑があったと考えられるというワケです。そんな作れるかどうかなんざIntelにしかわからない?皆さんの身近にはPentiumMというCPUがありますが、あれ実はP6アーキテクチャの派生品です。厳密にはコアにも手を入れてるので完全なるP6アーキテクチャの製品とは言い難いですが、CPUのプロセッサファミリを見てみるとP6アーキテクチャのファミリと同じ『6』となっています。

Pentium 4のPentium IIIに対する性能上の利点ははFSBの帯域の広さと拡張命令くらいでしたからPentium Mは見事にPentiumIIIの弱点を取り除いてPentium 4に対抗できるようにした製品と言えます。クロックは現在1.7GHzですがPentium 4なみに電力を消費してよいのならばおそらく2GHz以上も可能で、そう考えると処理速度ではPentium4といい勝負になるかもしれません。マルチメディアに強いというのがNetBurstアーキテクチャですが、Pentium Mははたしてマルチメディアに弱いというのでしょうか?

現在、Pentium 4は順調にクロックをあげてそれに伴い性能も上がってきています。クロックあたりの性能がP6アーキテクチャよりも悪いという弱点が克服されたわけではないですが、それを補えるだけのクロックがあるので消費者がこの点で悩むことは少なくなったようです。ただ今でもAthlonやPentiumMなどの説明をする際にはやはり消費者の混乱を招いているようですが。

Pentium 4は高かった?

Pentium4はCPUそのものが非常に高かったのも人気が出なかった理由の一つでした。当時はまだ今ほどCPUが安くなかったので市場全体も今よりか高めでしたが、出たてはどのCPUも高いものですが、ある程度価格が安定した後も一番安いPentium4 1.3GHzでも5万でクロック次第では10万という価格はやはりそう簡単に手がだせるものではありませんでした。

しかもただ高いだけでなく性能の割には割高だったのも事実でPentium 4 1.3GHzは当時Pentium IIIで最速だった1GHzよりも高価だったのです。Intelに言わせれば一世代新しい上にクロックが上なのだから高くて当然なのかもしれませんが上記の通りどの項目でもPentiumIII 1GHzに性能で勝てないPentium 4 1.3GHzの方が高いというのはやはり納得のいく物ではありません。Intelとしては新しいCPUであるPentium4に高級という価値観をつけてAMDとの価格競争で下落してしまったCPUの一つひとつの利益の底上げをしたかったのでしょう。しかし、すでに各種メディアがけちょんけちょんにけなした後のCPUに高級の価値観を加えるのは難しく、消費者はPentiumIIIにとどまるかAthlonに流れることになってしまいました。

結局Intelは半年後に方針を変えて大幅な価格改訂を行い現在のような手頃な価格に設定することになります。この価格調整で半額になったCPUまであったことを考えるといかにぼったくって高値で売っていたのがわかります・・・。

しかも、Pentium 4を使うには当然対応したマザーボードとメモリを買う必要があるのですが、当時Pentium 4用のチップセットは比較的高級なIntel850チップセットしかなく、チップ自身も現在でいうところのコンシューマ向けで一番高いランクな上にIntelのリファレンスが当初6層基盤で設計されていたために一般の4層よりも高価な6層基盤で製造されマバーボードも高価になってしまいました(後に4層基盤の設計も登場するがだいぶ後の話)。

おまけにこのi850チップセットはメインメモリにRDRAMを利用し、しかも二枚単位でつかう設計なため、超高価なRDRAMを二枚も購入しなければなりませんでした。SDRAMの128MBが5000円くらいの時代にPC800のRDRAMは一枚20000円以上しました。ちまたではIntelはRDRAMのライセンスをもっているランバス社とメインメモリでRDRAMを使うという契約を結んでいて、破棄すると多額の違約金を払わなければならないから、こんな高価でなメモリをメインメモリに使っているということが耳に入ってきました。もちろんRDRAMが性能面では有利なのはわかっていても、価格とのバランスが悪くい上にIntelの戦略的な都合もたぶんにあるともなると消費者として大枚出す気にはなれないのも当然でしょう。

現在では価格改定されて手頃な価格で提供され、Pentiumシリーズとしてはむしろ割安とも言える価格設定となっています。しかも、Celeronとの性能差がPentiumIIやPentium IIIの時よりも多いようで以前にまして消費者の人気が高いようです。チップセットもハイエンドからコンシューマ向けまで幅広いラインナップが用意されて、マザーボードも低価格化され買いやすくなりました。

最後までネックだったメモリもDDR-SDRAMを二枚使うことで性能面でRDRAMから劣ることなく使える環境が整い、さらにDDR-SDRAMが低価格化されたのでもはや問題ではなくなりました。

Pentium 4はまずかった?

Pentium 4は当初Socket 423で提供されましたた。しかし次のコアではSocket478に変更されることがすでに知られていて、しかも比較的に早い時期に移行することがわかっていました。Intelは技術的に不安があるという理由で当初からSocket478で投入することをためらったのです。安全を最優先しているとも言えますが、はやり買う方とすればすぐに使われなくなることがわかっているプラットホームに対応したCPUやマザーボードを率先して買う気にはなれないでしょう。

しかも、途中からRDRAMの先行きもだんだん怪しくなりDDR-SDRAMに勝利が見えてきていた時期であったのもあり、メモリまで使われなくなる可能性があったわけですから買い控えがあっても不思議ではありません。結局、CPUもSocket478となりメモリもDDR-SDRAMに移行してからPentium 4は徐々に人気がでてきたのでした。

また、PentiumシリーズはほとんどのCPUでSMP(コンシューマ向けではDualまでが一般的)に対応していましたが、Pentium 4では非対応になっていました。これは後にHT技術を投入することになっていたためにDualCPUに対応させるとOS側が実質4CPUに対応させる必要があったからだと思われますが、そんな先のことをしらない我々にとって単にDualをしたければ対応している高価なXeonを買えとIntelに言われているような気がしていい気分はしません(実際にPentium4とXeonはSMP対応と信頼性および価格以外にほとんど差がなかった)。もちろんSMPを組む人はごく少数でしょうが、組むつもりがない人でも、限定されていることはあまり好ましいとは思わない物です。この制限もHTが公開された結果ほとんどのユーザーにとって納得ががいくもので、この点について問題となることは現在ではほとんどないようです。

じゃぁ今のPentium 4はどうなのさ?

最終的に速度面でもクロックの上昇やHT技術の投入などで問題ないレベルとなりPentium 4の性能に対する信頼は回復しつつあります。値段に関しては値下げによって問題ないレベルですし、メモリやマザーボードは安定して低価格にとどまっている感じです。初期の将来性の問題点も解決済みとなりPentium4はIntelのコンシューマ向けのメインストリームとして君臨しているのです。