はじめに
Crusoeは2000年にTransmeta初のCPUとして発売されたモバイル向けCPUです。
開発コードネームもCrusoeで、x86のCPUとは互換性のない小さくシンプルなCPUコアをエミュレーションを行うことでx86のCPUとして利用するという発想のもと開発されたのが最大の特徴で他のCPUでは見られない新しい発想です。CPUコア自体が小さいので発熱や消費電力が低くモバイル向けに向いているのですが、通常の処理に加えてCPUのエミュレーション処理が加わるので処理自体はPentiumIIIなどよりも低くなってしまいます。
主な仕様
主な仕様 (Crusoe)
- エミュレーションを前提に作られた初のプロセッサー。
- モバイル向けに作られたプロセッサー。
- 低消費電力と低発熱。
スペック
チップ名 | Crusoe TM5400 | Crusoe TM3120(TM3200) |
---|---|---|
開発コードネーム | Crusoe | |
一次キャッシュ | 128KB | 96KB |
二次キャッシュ | 256KB | - |
FSB | - | |
クロック | 500-700MHz | 333-400MHz |
パッケージ形状 | 474 BGA | |
対応スロット | - | |
コア電圧 | 1.65V | ? |
プロセスルール | 0.22μ | 0.18μ |
ダイサイズ | 77mm2 | 73mm2 |
トランジスタ数 | 約280万個 | ? |
拡張命令 | - | |
分類 | VLIW | |
その他 | ノースブリッジ統合 |
特徴
Crusoeの最大の特徴はx86のCPUをハードウェアに近い部分でエミュレーションする点です。例えばPentium 4ではx86命令を処理する物理的なコアを持っていて、加えてMMXやSSE2などの拡張命令もハードウェア的に実装しています。しかし、Crusoeはx86とはことなるシンプルで小さなVLIW=VeryLong Instruction Wordを処理する命令処理コアだけを物理的にもっていて、x86命令やMMX、SEE2をリアルタイムにVLIWに変換して実行します。
簡単に考えればSSE2を持たないPentiumIIIでSSE2に対応したソフトを実行するとSSE2の分はCPUの通常の演算で処理されます(この場合はエミュレーションではなく単にソフトがどちらでもいいように書かれているだけだが)。同じようにx86命令実行系やMMX、SSE2を持たないCrusoeはそれらをすべてエミュレーションするわけです。これによって沢山の命令系をハードウェアで処理するよりもCPUがシンプルになり小さく作ることができます。CPUが小さければ価格を抑えることができ尚且つ消費電力を減らすことができるので、低価格パソコンやモバイル向けに優れた性能を持ちます。
エミュレーションを行うとエミュレーションを行う処理の分だけ効率が悪くなりハードウェアで実装する同クロックのCPUよりも性能が落ちてしまいます。Crusoeは最初からエミュレーションを行うことを前提に製作されたCPUでこのエミュレーションをハードウェアに近い形で行います。よってエミュレーションを行う性能低下を最小限に抑えるだけでなく、起動した瞬間からx86系のCPUをエミュレートするためにx86向けの既存のソフトウェアやハードウェアをそのまま利用することができるという利点があります(OSが立ち上がった後にエミュレートする場合はハードウェアやOSなどをCrusoe用に作り変える必用がある事が多い)。
CrusoeのエミュレーションはCMS=Code Morphing Softwareによって行われます。つまりSoftwareを書き換えることでCPUの性能自体を向上させることが可能です。例えば発表当初よりもCMSを効率化することで同じプロセッサーでも後からでも性能が上がることもありますし、新たな機能を追加することも可能となり将来性が極めて高いです。(BIOSと同じようにユーザーが勝手に書き換えるられるとは限らない。)
Crusoeはモバイル向けに作られたCPUなのでLongRunと呼ばれる高度な省電力機能が搭載されています。LongRunはその時の処理の重さに応じてクロックと電圧=消費電力を動的に切り替えることで電力の節約と高いパフォーマンスを実現しました。この機能はIntelのSpeedstepをさらに強化したようなもので、SpeedstepはACアダプタに接続しているかバッテリで駆動しているかの違いでクロックを切り替えるのに対して、LongRunはバッテリ時でも負荷が高いときにはフル稼働し、逆に負荷が低いときにはぐっとクロックを低くするのでバッテリの持ちがかなり長くすることが可能です。ちなみに、後にIntelがPentiumMに搭載した拡張版Speedstepと呼ばれる省電力機能がこれと同様です。
そもそもCrusoeは低消費電力と小型化が最重要であるモバイル向けやPDAなど用に開発されたCPUでWindows 98が快適に動く程度の性能を目標に作られました。しかし、使い勝手がよかったために各社がWindowsXPなどヘビー級のOSを搭載して出荷したためにCrusoeは安くて低燃費だけど性能はね…というレッテルを貼られてしまいました。CrusoeはTransmeta初のCPUということもあってCPU自体の設計やCodeMorphing Softwareもまだ未熟で今後に期待したいところどす。
ちなみに、TransmetaはコードネームASTROとよばれる次世代CPUを設計していて、こちらはWindows XPが快適に動くかなり強力なCPUだそうでモバイルだけでなく低発熱で低価格な利点を生かした省スペース型などにも投入していく予定だそうで、近いうちに登場するとのことです。
ラインナップ
Crusoeには複数の種類が存在します。まずベースとなるパソコン向けのTM5400(TM3120はパソコンよりもっと小型のモバイル機器向け)と後に2次キャッシュ強化版のTM5600が発表されます。その後TM5600の改良版のTM5800とその機能限定版(TM3120の後継にあたる。)のTM5500が登場します。基本的にはすべてTM5400をベースとしています。
また、CrusoeはCMSの更新でプロセッサー自体の性能向上が見込めるので同じプロセッサーでもCMSによって性能が異なります。
チップ名 | Crusoe TM5400 | Crusoe TM5600 | Crusoe TM5800 | Crusoe TM5500 |
---|---|---|---|---|
開発コードネーム | Crusoe | - | ||
一次キャッシュ | 128KB | |||
二次キャッシュ | 256KB | 512KB | 256KB | |
FSB | - | Crusoe | ||
クロック | 500-700MHz | 700-1000MHz | 600-800 | |
パッケージ形状 | 474 BGA | |||
対応スロット | - | |||
コア電圧 | 1.65V | 1.3V | ||
プロセスルール | 0.22μ | 0.18μ | 0.13μ | 0.13μ |
ダイサイズ | 77mm2 | 88mm2 | 55mm2 | |
トランジスタ数 | 約280万個 | ? | ||
拡張命令 | - | |||
分類 | VLIW | |||
その他 | ノースブリッジ統合 |